芦屋将棋倶楽部に行って驚いたのは、道場に設置されたほとんどの駒が「盛り上げ」だったこと。
「こんな上等な駒を使っておられるんですか!」と訊ねたら 「ここを開くときに今までちょこちょこ集めていた駒を全部出しました」とニコニコッ。
この「ニコニコッ」がどれだけ多くの子ども達を幸せにしていることか。
学校帰り子どもたちは、みんなとっても楽しそうな顔をしてこの道場に駆け込んできて その日の出来事などを真っ先に田畑さんに話す。
それを「うん、それで、ほぉ〜」とじっくり聞いて、きちんと目を見て答える田畑さん。
「この子はね、すごく頑張りやさんでね」とか、 「この子は模試でいつも5番以内なんですよ、な」など、 聞いているといかにひとりひとりをじっくり見ていらっしゃるかがわかる。
道場を始めてまず真っ先にブチ当たったのが「将棋が好きだけではやって行けけない」ことだった。
将棋を指すことに熱中しすぎると、お客さんに行き届かない。
経営ばかりに気を取られていると、将棋の楽しさを伝えられない。
道場の掃除、備品の整理、人と人との付き合い。
「道場」周辺の思いも寄らない事柄に次々と振り回されることが続いた。
そしてようやく、レポートにもあったように、田畑さんはこの道場を「子ども中心」のものとした。
将棋を通じて子どもの持っているものをどんどん引き出してあげたい。と田畑さんは言う。
引っ込み思案な子が外に向かって行く勇気を得たり、 落ち着きのない子がじっくり物事に取り組むようになったり、 将棋がその子のいい面をどんどん引き出してくれるようになったら最高。
そしてそれと同時にどんどん強くなる子をそばで見ているのが一番の幸せ。
「だからね、手放してあげないといけない時が、 辛いんだけど、子どもを伸ばすために手放さないといけない時が来るんですよ」。
そして、武道の心「守破離」について教えて下さった。
将棋を始めて間もないヨチヨチ歩きの子はじっくり見守り育てる(守)。
そのうち強くなって自分なりに試行錯誤(破)し、
道場でトップクラスになり始めたら、外へ(他の道場や研修会)出す(離)。
「この『離』が難しいところでね、 道場経営から考えると『巣立たせる』なんて本当は大変なことなんです。
でも、子どもは伸ばしてあげなくちゃいけませんからね。
『普及』と『経営』の両立は…大変ですねぇ」。
私が普及指導員になって初めて出会ったのが田畑さんだった。
子どもをたくさん指導しておられると聞いていたから、 ご苦労されたこととか、どういうことに注意すればいいかなどたくさん教わった。
ちょっと足を伸ばせばすぐ芦屋将棋倶楽部に行けるから「困ったときは安心」と思うことができ、
いろんなことにも臆せずチャレンジすることができた。
最初に出会ったのが田畑さんで本当によかったなと思う。
パチンとひとつ駒音。
この駒を使って5年になりますが、ひとつとして無くなったことはありません。
不思議でしょ。これがプラスチックの駒だったらすぐ無くなっていたかもしれませんね。
いつもね、みんな「先生の宝物やもんね」って大切に使ってくれます。
「今日はあの駒にしよう」なんて言いながらね。
指し方も丁寧ですよ。ほら、子どもの元気をもらって駒がピカピカ光ってるでしょ。
この駒をね、週に一度、幸せな気分で磨いています。
道場内はゴミひとつ落ちていない。
駒だけでなくすべてがピカピカ。
そして子どもたちと田畑さんはニコニコ。
ここは田畑さんの将棋に対する気持ちが全て表れた道場なのだと思った。
どかん3号