- 第5回-

 

 


[今月の駒]


[熊澤良尊作・淇洲書]
淇洲は、明治時代の山形県酒田の竹内淇洲。
  在野にあって将棋八段という実力者で、書も能くした人である。
有名な関根名人ゆかりの「錦旗」は、淇洲が13〜14歳ころに書いた駒だと言われている。
素材は、御蔵つげの根っこ。

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    今月は、初心者向けに「駒のいろいろ」をお話しします。
一口に「」と言っても、いろいろありますが、
雰囲気としてはやはり「木」がよい訳で以下は駒の選び方について解説します。

木製の駒には製法によって「スタンプ駒」「書き駒」「彫駒」「彫埋駒」「盛上駒」があります。

スタンプ駒」は、柔らかい「朴の木」などに印刷した大量生産の駒であり、数百円程度の最も安い値段で売られています。

書き駒」は、木地に直接文字を書いてあります。
江戸時代以前は専ら「書き駒」でしたが、現在は天童駒のごく少ない1人か2人くらいの職人(=書き師)が、製作しているのみです。

良い物は「ツゲの木」が使われますが、安い「シャムツゲ」で作られることが多いようです。漆でちゃんとした文字が書けるようになるには相当の年期が必要いるのですが、その割りに値段が安いので、時代とともに作る人が少なくなりました。
値段は1万円くらいから、木地の良いもので数万円というところでしょう。
文字は、明治時代以来の伝統的な「草書」と呼ばれる書体と、「楷書」と呼ばれる書体の2種類があります。「草書」の字体は装飾的であり、実用するとなれば「楷書」が良いでしょう。

彫駒」は、文字が彫ってある駒で、最もポピュラーな駒です。
昔は専ら手彫りの駒ですが、最近は機械彫りが主流になっています。
手彫りでも機械彫りでも、とにかく文字がしっかり彫ってあれば、普通のものなら余りこだわる必要も無いでしょう。
それより、磨きがしっかりしているかどうかを優先した方が賢明です

値段は、「ツゲ」なら2万円から5万円くらいが主力で、「シャムつげ」はその半分位でしょう。
「槙」などの安い素材の略字彫りなら数千円くらいで買えますが、やはり「駒はつげ」に限ります。素材にはこだわった方が、後悔しないで済むでしょう。

素材は天然の木ですから、「ツゲ」と言ってもピンからキリまでです。
特別な美しい木目の「ツゲ」なら、10万円あるいは20万円を超えるものもあって、値幅は結構広いです。

ところで駒の買い方ですが、実際に手にとっていろいろ比較して確かめて、本当に気に入ったものを買うべきです。
予算もありますが、気に入ったものが予算よりオーバーしているからと言って、それを買わないで、少し安い方を買うと、あとあとになって「あのとき、もう一つの高い方を買っておけば良かった」と悔やむことになるものです。

値段差は、木地の違いのほか、文字が楷書で彫られているものと略字の違い、その略字も、略している度合いで値段に差が出てきます。
出来ることなら「ツゲ製の楷書」の駒をお勧めします。良い気分で、長く使っても飽きがこないからです。
なお、楷書で彫ってある駒のことを“ぶひょうほり歩兵彫り)”といいます。
   
道具への「こだわり度」が強い方なら、誰々の作ということで「作者」にもこだわりが出てくると思います。
好みの問題もあり、誰々が良いとかは言えませんが、値段的には2倍3倍、場合によっては10倍くらいの格差があるようです。

いずれにしても、良い駒を手に入れたいと思う人は、多くのお店に行って多くの駒を実際に見ることです。
いろいろな人が作った駒をたくさん見ているうちに、駒を見る眼=鑑識眼=が出来てきます。
百貨店では置いている数も少ないので、多くの駒が並んでいる専門店を最低3軒くらい廻って、その中から本当に気に入ったものを買うべきだと思います。
通信販売では、実際の駒の細かいところは判らないものです。

惑わされてはいけないこと]は、値段と作者銘です。売り値が高い方が必ず良いとは限らないし、売られている値段が安くても良い物は結構あるはずです。また、作者銘にこだわる必要は全く無く、むしろ、作者銘を見ない方が駒としての本質が良く見えるのではないでしょうか。

彫埋駒」は「彫り駒」の文字の凹んだところを漆で埋めた駒です。
値段的には「彫り駒」に比べて、かなり高い値段設定になっていることが多いですが、製作の技術では「彫り駒」の延長です。

プロのタイトル戦では、専ら「盛上駒」が使われます。
盛上駒」は文字を漆でこんもり盛り上げて作るので、製造工程は「彫埋駒」から1工程増えることになりますが、出来上がりのパッと見は「書き駒」と変わらないと言えます。
先に、江戸時代は「書き駒」が作られていたと述べましたが、その頃の「書き駒」の上等品は、達筆な公家衆が肉筆で書いたものであり、古筆の短冊と同様の立派な美術品でもある訳です。

現在では、そのような達筆な優雅な文字を駒に書く技術はほとんど無くなっているので、文字を印刷した「字母紙」を貼って、それを彫って漆で埋めて、そのあとを塗り絵のように何回も漆をつけた筆でなぞって作ることになります。
ですから、専門的に言えば「盛上駒」は、「書き駒」のように肉筆の文字ではないので、生き生きした文字には中々なっていないという微妙な違いがあります。

 

[追記]
毎日文化センターでの「駒サロン」講座参加者の強い要望で、昭和52年から平成元年までに発行した
駒づくりを楽しむ会・会報創刊号から50号の合本を作成します。
ページ数は440頁、駒の話や木地の話、その時々のトピックス、駒づくりのノウハウ、第1回〜第3回の駒書体創作コンテスト応募作品(字母)延べ70点などを収録しています。
印刷部数は多くないので市販は致しませんが、希望者には一冊4000円(+送料300円)でお分けします。
ご希望の方は、現金書留にてお申し込み(予約)ください。発送は11月末予定です。

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