- 第3回-





「菱湖書」の盛上げ駒

[今月の駒]

「錦旗」の書体
御蔵島のつげ赤柾  熊澤良尊作

 

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今月も『つげ』の話です。

 BBSで「将棋誌の駒の記事で読めない漢字が・・・」との書き込みがありました。

確かに駒特有の用語や学校で出て来ない漢字もあると思います。
特殊な読み方をする漢字や、中学生には少しむりかなと思う漢字には、出来るだけルビを付けるなど気を付けています。しかし、国語の教科書でもありませんので、当用漢字以外の漢字でも、本や雑誌で良く見かける漢字にはルビは付けておりませんので、若し、意味不明な語や、読めない文字があれば具体的に指摘してください。

 今回は、国語教室のつもりで「つげ」のことを書いてみました。

『つげ』は漢字で「柘植・柘・黄柳・黄楊」などと、いろいろな書き方があるようです。私の場合は、良く「黄楊」を使いますが、これらの漢字から「つげ」は、

 @、石のように堅い木。
 A、黄色い柳(楊)に似た感じの木。  というイメージが浮かぶと思います。

しかし、「つげ」は堅くてもガチガチの硬さではありません。
やや弾力性があって、同じ木材の堅さでも弾力の無い黒檀のような硬さや、石のようなカチカチの硬さとは違います。
「つげ」の持つほどよい堅さと弾力が駒に最適であり、何百年も前の昔から「駒はツゲに限るべし」
という言葉が語られている訳です。

国語教室@
:「楊・柳」は、どちらも「やなぎ」のこと。
国語教室A
:「硬い・堅い・固い」は、いずれも「かたい」ですが、その使い分けは、
  ・金属や石などガチガチの硬さには「硬い」。
・固くても弾力性がある木材のようなものには「堅い」。
・頑固頭など実体がないものや、もともと柔らかだったものが変化したものには「固い」の使い分けです。
 (国語教室はこれで終わりデス)


この粘り気と弾力性があるので『つげ駒』は、少々のことでは割れません。
その「つげ駒」を、昔、対局中に割った人がいます。

作家・藤沢恒夫さんは「将棋百話」と言う本で、北村秀次郎七段(故人)が、対局中に飛車の駒を割った話を「駒割りの秀」として書いているので、オールドファンなら知っている人も多いでしょう。

飛車は縦に並んだ2文字の中央が深く彫ってあるので、盤に強く打ち付けたとき、そこから真っ二つに割れたということです。多分、そのとおりだと思いますが、私の解釈では、もう一つ伏線があったと思っています。

その駒には最初から誰も気づかないほどの小さなヒビ割れが入っていて、強い力で北村七段が盤に打ち付けたとき、それが引き金になって割れたのではないかと思っているのです。

新しい駒でも、気づかないほどのヒビ割れが入っている場合がないとも限りません。
駒を作っている工程で、大半のヒビ割れはほとんど見つけらますが、稀には小さなヒビ割れを見逃すことも考えられるわけです。
作っていて、最後の最後まで分からなかったヒビ割れが、盛上げが終わってから見つかったという例もあります。
 
北村七段が割った「飛車」は、最初からヒビ割れがあったと思えるのです。
耐久性があり長持ちするところも「つげ」の良いところで、いずれにしても、使っていて割れるような駒は、駒としては欠陥品ですね。


次に、『つげ』の色と艶ですが、「黄楊」とあるように大半は淡い黄色です。
その木肌は緻密で、磨くと美しい光沢が出ます。使っているうちにだんだん飴色を帯びて一層美しくなるのが、駒の材料としても最適な理由のひとつです。
 
最初から良く磨いてある駒は、より美しくなって行くものですが、手抜きして磨きが足らないと光沢は出て来ません。ですから、駒を選ぶ場合には、磨きがしっかりされているものを選ぶべきでしょう。
 
早く良い色にしたいと、やたら油でベタベタにしたり、油浸けにする人がいます。
それは無茶というもので、厳禁です。漆が剥がれるだけでなく、大切な駒が汚なく下品になってしまい、そうなると元には戻らず、取り返しが付きません。

ところで、俗に「シャムつげ」と呼ぶ代用品の輸入品があります。比較的似た材料ですが、本当の「つげ」ではありませんし、使っていても「つげ」のように美しくなりません。

その「シャムつげ」を、偽って「本つげ」と称して売っている例が結構あります。

例えば、櫛や印鑑も同じです。
近くの大型スーパーに印専門店があったので、何げなく覗いたところ、「本つげ・1万5千円」などと表示してありました。よく見ると、どれもこれも「シャムつげ」ばかりで、本当の「本ツゲ」は一つもありませんでした。
余計なお世話でしたが、店員らしき人に「商品は、本ツゲでなくシャムつげばかりだと、社長に伝えるように」と言ってしまいました。

「つげ櫛」も同じような状況です。
大きさにもよりますが、本物の「つげ櫛」は、2万円くらいします。
信用第一の百貨店でも、品質管理は仕入れ業者任せが実体で、何も分からずに「シャムつげ櫛」を「本つげ櫛」として売っている場合がよくあり、「本つげ」と表示してあっても数千円程度の櫛は、大概が「シャムつげ」だと疑ってかかるのが賢明でしょう。

なお、「つげ櫛」といえば、東京の上の池の端と、京都の四条に「十三や」と「二十三や」いう老舗が有名です。ここは専門店で、そのようなことは無く、きちんと説明してくれると思います。
蛇足ですが、「櫛屋」さんの屋号が「十三や」とは何故か。
 
昔の人は、「くし」の語呂は「苦死」で縁起が悪いと、「く=9、し=4」を加えると、「9+4=13」で「十三や」にしたそうです。
また、「二十三や」は「唐櫛」の「とう(10)」と「くし」で、23と言う訳です。
 ジャンジャン。

 今月はこれにて終わります。ではまた。