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ひまわりと七段
      
  
浦野家玄関先
ベランダより手を振る浦野夫人
<浦野家訪問>

 駅までお迎えに来てくださった浦野七段。
徒歩約5分の道のりを、お話ししながら15分くらいかけて歩く。
のんびり歩いたのはその道すがら、どうしても撮影しておかなくてはならない場所があったから。
それについてはまた後ほど。

 浦野家に到着。ピンポーンとチャイムを鳴らすと「はーい」と同時にガチャリとドアが開いた。
数年前お会いしたときとちっとも変わっていない麻七美夫人登場。
胸元には真っ黒な子猫がヒトデのようにベッタリとしがみついている。
突然の訪問者に驚いたのか、子猫は麻七美夫人の肩にかき登り、ピョンと部屋の奥へ逃げていった。
「こら!ひまわり!」
どうやらアイツの名は「ひまわり」というらしい。
ほら、ものすごいゴンタな妹がおるでしょ、アニメに。と浦野七段。
ああ「クレヨンしんちゃん」ですね。
そうそう、どうも手に負えんからね。ひまわりに決定。

<小学校訪問>

 浦野七段は月に数回、近くの小学校に将棋を教えに行く。
小学校の「クラブ活動の時間」である。
麻七美夫人も同行し、盤を並べたり子ども同士の対局を見て回ったりしている。
そこへお邪魔した。
授業では8枚落ちがほとんど。それでも将棋を始めたばかりの子どもたちには大変。
真剣な表情でなんとか上手玉をやっつけようとするが、スルスル逃げられてしまう。
と、撮影に参加していたどかん4号が見かねて少年に耳打ち。
とたんに少年は目を輝かせ駒を動かし出した。
いつの間にか「浦野七段VS少年」が「浦野七段VSどかん4号」に。
4号、8枚落ちはマズいでしょう。

 クラブ活動に浦野七段が講師として来られるなんて(しかもボランティアで)。
なんと贅沢な小学生たちであろう。
プロ棋士に初歩の初歩から習えるのかぁ。とただただ驚くばかり。
さぞかし大変でしょう。と聞いたら「あっという間に終わるし、楽しいよ」と即答。
すごいなあ。

 帰り道の浦野七段夫妻はお散歩に出掛けるよう。楽しそうに自宅へ向かう。
なんともチャーミーグリーンの似合う風景だった。

小学校でのひとコマ

楽しそうに自宅へ向かう

 
<本当は…は誤解>

 近鉄将棋まつりがまだ百貨店の催し会場で行われていた頃。
見学に行ったらちょうど浦野七段が解説中だった。
端っこの見やすい場所へ移動する。と、浦野七段を心配そうに見守る二人の女性。
その女性たちに、同行していた友人が「お久しぶりです」と声をかけた。
その母娘は浦野七段のお母様と妹さんだったのである。

 お二人は心配そうに、そして驚きながらこう言った。
「お兄ちゃんがあんなにしゃべっている姿を初めて見た」。
お二人によれば、「お兄ちゃん」はいつも家では無口。ときどき話をする程度。なのだそうだ。
だから解説などできないと思い、心配になって見に来た。
ところがスラスラとてもいい雰囲気で話しているではないか。
お二人は驚きのあまり「すごいね」とため息を付いた。

 それからである。私の中で「浦野真彦七段=家では無口」という図式が出来上がったのは。
あちこちでお会いしてお話しするが、あれはきっと仮の姿なのだろう。とずっと心の隅で思っていた。

 そこで今回、意を決して単刀直入に聞いてみる。
「お家ではあまりお話なさいませんか?」。
すると麻七美夫人が「そんなことないよ。普通よ」。
何故そう思ったかを説明すると浦野七段、麻七美夫人は顔を見合わせて笑った。
「家にいたときはしゃべらないんじゃなくって、会話に参加できなかったと言う方が正しい」と浦野七段。
お母様も妹さんもとてもおしゃべりで、ましてや女性同士、なかなか会話に入って行くチャンスがなかったそうである。

 なーんだ。お家でもあちこちでお会いするまんまだったんだ。よかった。

<詰将棋>

 看寿賞の選考委員、将棋世界の「詰将棋サロン」、「スーパー詰将棋(囲碁・将棋チャンネル、全25回)」、
そして1日1題を目標に5手詰創作。
浦野七段は今年に入って詰将棋中心の生活を送っている。
詰将棋ばっかりで大変じゃありませんか?と聞いたら
「やっぱり好きだからかな、少しも苦にならなないよ」。

 ところが原稿の締め切りはとっても苦手で、
「もう気になって気になって仕方がない。『詰将棋サロン』は締切10日前には仕上げて送っている」そうである。
もしかすると夏休みの宿題を7月中にやってしまう超几帳面なタイプ?!
(夏休みが終わっても宿題の終わっていなかった私には想像もつかない)

 今年の看寿賞の選考では1000作品以上に目を通されたそうだ。
主な作品を中心にとは考えなかったんですか?と訊ねたら
「だって『あの作品はどうだったの?』って聞かれたとき、その作品を観ていなかったら悔しいでしょ。
作った人の大事な作品だからね。なんかすごく気になるんだよね」
とっても大切。
そう、浦野七段にとって詰将棋は宝物って感じがした。

<懐かしい写真>

 いろいろ無理を言って、浦野七段の小さい頃の写真や結婚式の写真をお借りする。
奨励会の旅行の写真は四段になった次の日の記念すべきもの。
このページ内のどれもがお二人にとって思い出深い写真です。
じっくりとご覧ください。

夫人のあこがれ棋士谷川王位と!
 
奨励会旅行−四段昇段の翌日に!
 
昭和60年の奨励会旅行−坪内先生の奨励会幹事の時で棋士になってからも参加!
 
スカ太郎さんと(久保八段の祝賀会 )
 
福崎文吾八段より昇段祝いにて譲与された駒と愛用の盤

        
 

ごんた娘「ひまわり」

ひまわりが捨てられていたゴミ捨て場
ごんた娘「ひまわり」その1
ごんた娘「ひまわり」その2
ごんた娘「ひまわり」その3


<手紙>
 お父さん、お母さんへ

 気が付いたら、真っ暗でツルツルした壁の中でした。
驚いて大声を上げたけど、誰の返事も聞こえません。
それで思い切って暴れてみました。
そしたらガヤガヤ人の声がして、突然壁が消え、まぶしい光の中に放り出されました。
私はとっても怖くて身動き一つできませんでした。

 そのときでしたね、お父さんがそっと手を差し伸べてくれたのは。
しばらくどうしていいのか解らなかったけど、
お父さんの手のひらはとってもあたたかでした。

 お母さん、いつも引っかいてばかりでごめんなさい。
もうピアノの後ろには飛び込みません。テーブルの上にも飛び乗りません。
お母さんの作ったトールペインティングの作品も壊しません。
なるべくお母さんが作ってくれた段ボールの階段と、ラップの芯で遊ぶようにします。

 お父さん、お母さん、ありがとう。
あの日、誰も気付いてくれなければ、
私はあのゴミ袋に入れられたままゴミ収集車の中で短い人生を終えていたでしょう。
あの日、お父さんが連れて帰ってくれなければ、私はどうなっていたか解りません。
 ほんの一瞬。偶然の重なった一瞬が、私に命を与えてくれました。

 お父さん、お母さん、本当にありがとう。  

 ひまわりより



麻七美夫人のトールペインティング作品

麻七美夫人のトールペインティング作品 小物入れ
麻七美夫人のトールペインティング作品 コースター
麻七美夫人のトールペインティング作品 掛け時計
麻七美夫人のトールペインティング作品 菓子皿



<浦野家にて>

 遊んでいるうち、膝の上で眠ってしまった。スースー寝息を立てているひまわり。
「ごめんね、重いでしょ」と麻七美夫人が抱き上げ「指定席で寝てなさい」とソファのそばのクッションへ。
ニャーと、か細い声を出して、ひまわりはのびをした。
ここは暖かくて楽しくて安心できる空間だよ。
ひまわりはそう言ってもう一度のびをした。



2003年6月23日(月)
浦野家自宅にて
記事 どかん3号 撮影 どかん4号
写真提供 浦野真彦七段


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