思い出に残る一局

 

昨年度一番印象に残った対局はというとやはり、千勝を達成した王位戦での一局である。
挑戦者決定戦で佐藤王将に勝ち、最高の形で千勝にリーチをかけたものの、続く青野9段との順位戦、三浦8段との日本シリーズで連敗。
内容も良くなく、千勝の事よりも王位戦を互角に戦えるかどうかで必死だった。
後手番になりゴキゲン中飛車を採用。あまり経験のない形だが、春から始めていた研究会で何局か試していた事も大きい。

一直線で大決戦になり、図は29手目の局面。ここでの40分の長考が一番苦心した時間だった。
常識的には△8九馬だが、ここでは馬が働かない。図では形勢に自信がなく、この将棋をもし勝てるとすれば、6六の香を取り切って△6六馬と引く展開しかない。と判断した。
どちらかというと消去法で決断した△7二玉▲2二歩成△6一香だったが、これが勝因となった。

17時41分終局。大盤解説場へ顔を出した後感想戦、記者会見と慌しく時間が流れたがその中で。終局直後羽生さんが、報道陣が取材しやすいように盤側のお盆やポットを片付けていた事が印象に残っている。

主役になる事もあれば、脇役に回る事もある。という事を羽生さんは承知している。これも彼の強さと魅力なのであろう。
昨年末、共同通信社主催で二人で初めて対談した。その中で羽生さんが、負けたのは残念だけれど、千勝という場に立ち合えたのは良かったかなとも思う。と言ってくれたのが嬉しかった。
二人の対局は百三十二局を数える。これからも、名舞台を演じられるように頑張らなければと思っている。
平成15年3月11日

王位 谷川浩司


topへもどる