バックナンバー
●写真をクリックしますと拡大表示されます。

文字を大きくしてご覧になりたい方へ
全員集合! 

 

自転車通学が大半デス
 
単位制だから登校時間がまちまち
 
木谷先生の大盤解説会

長吉高校での将棋の授業

 授業を実際に行ってみて

  まさか授業で将棋をやるなんて教師になったときには思いもしなかった。職員会議で提案したときだってきっと反対されてだめやろうとどこかで思っていた。ところがもう授業を始めて4年目である。しかも大阪で最初の将棋の授業をしている教員である。


最初は生徒に将棋の先生と言われるのに抵抗もあった。「俺は数学の教師や!」ってどこかで言い返したい気持ちも持っていた。でも今は自分から「色物の先生」(長吉高校では専門外の授業を持つ教師をお互い冗談でこう呼ぶ)とか「数学より得意なのは将棋」などと生徒にも言っている。


授業をやってみて一番良かったと思うのは生徒との距離感。本業の数学とは違った距離感で生徒と接することが出来る。数学なんて嫌いな教科ナンバーワンの見本みたいなものだから、それを教える教師なんて宇宙人みたいなもの。宇宙人が黒板の前で訳のわからん言葉でしゃべってたまに訳のわかる言葉が聞こえたらそれは私語を注意された叱責の言葉だったなんてのが生徒にとっての数学の教師像だったと思う。


でも将棋の先生となると別。少し腕に覚えのある生徒なんかは江戸の敵をなんとやら本気で負かしてやろうと勝負を挑んでくる。こちらも負けたくないから勝負は真剣!(実際負けたらこちらの威厳にかかわる)でもそこで普段より近いところで生徒をみることが出来ている。(単に一緒に遊んでいるようにも見えるかもしれないが)。
もちろん授業なんだし、プリントや講義形式の授業もやる。(授業の半分はこちらである。)少しでも強くなってより将棋を楽しんでももらいたいし。それに何よりこの授業全体を通じて彼らに学んでほしいことが山ほどあるから。負けた悔しさをバネにして努力することや、じっくり物事を考えることなどあげだしたらきりがない。どれだけ目標が達成できているかはまだまだ反省・改善の余地はあるが長吉高校の将棋の時間としては一応のスタイルは確立したと思っている。
 
 
授業開始まで

 1.授業開始のきっかけ
 
真剣!
 
仲良しグループ
 
ayaは帽子好き
 
どうしようかな?
   私が赴任した当時(99年)、長吉高校は普通科単位制高校(注)への改編を目指していろいろな取り組みを行っている真っ最中。改編そのものは教育委員会がGoサインを出さない限りどうしようもないが、いつGoサインが出てもよいように準備だけはしておこうというのが当時の校内の雰囲気。その一つとしていろいろな選択科目を用意しよう、学年の枠を超えて1年から3年までの生徒が入り乱れた授業をおこなう時間も作ろうということが議論になりました。

 赴任したばかりで何もわからんからおとなしくしとこうとは思ったのが、つい黙っていられなくなって私も二つ科目を提案してそのうちの一つが将棋だったわけです。(もう一つは身近な数学といって今年度から新たに数学の科目になった数学基礎のはしりみたいなものでした。)

(注)普通科全日制単位制高校といえば簡単に言えば自分でとりたい科目を選べる学校。大学をイメージしてもらうとわかりやすいと思う。よく間違われるのが単位制だから学校にほとんど行かなくていいの?という間違い。あれは通信制で、全日制は学校にはちゃんといかなくてはいけない.。
 
 2.反対は無かったのか
   ほとんどなかったですね。すでに囲碁が候補になってたということもありますが。だから私の提案理由も囲碁がありだったら将棋もどうですか?なんなら自分がやりますよってノリでしたから。ただたしかに「なんぼ単位制を目指しているからってレジャーランドみたいな遊びの科目ばかり増やすな」なんて意見もありましたが。まあそれももっともな意見だと思いますし。ただ全体としてはとにかくやれる科目があったら何でもやってみようみたいな雰囲気だったと思います。
 
 3.道具や教材は?
   今となってはお笑いですがホント何も無かったんです。将棋盤も無かった。だからいざ授業が始まる段になって私と伊藤先生で百円均一を走り回ってなんとか30セット駒をそろえた位ですから。教材もとにかく試行錯誤というか何とかなるだろうって感じでした。
その後、高校の特色作りの予算とかがついて、普通の折りたたみ式の盤・駒のセット、解説用の大盤が購入できて形になりました。
 
きゃー!取られたぁー
 
女子ナンバーワン長考中
 
休み時間に突入。でも指し続ける。
 
いまどきの光景

授業を開始して

1.この4年間のホントにおおざっぱな流れ

   1年目、2年目は自由選択という2時間の時間帯で授業を行いました。人数は1年目は 1年生から3年生までの60人、2年目は2年生3年生での60人(注1)。1年目の最初は前述の百均駒でのスタートでした。よく誰も文句いわなかったなあという気もしますが。途中からは学校の特色作りの予算が府からでて折りたたみの将棋盤と前で説明する 用の大盤が購入できて授業らしい雰囲気に成りました。
 3年目は単位制2年目の生徒30名、学年制3年生の12名で行いました。
この年のみ2時間連続では無かったので授業の進め方が難しかった。
 今年は単位制のみになり2時間連続が復活。かわりに半期完結(注2)という新しいル ールのもとで9月まで28名、9月から20名で授業を展開。

(注1)授業開始2年目の01年に単位制高校に改編。1年生は単位制の生徒。2・3年生は学年制の生徒という併存状態に入った。 
(注2)単位制ならではのルールで、授業が半年単位になっている。ちなみに1年間同じ授業を受けるのは通年ものという。
 
2.指導普及員橋本さん
   1年目の秋からずっと授業の方のお手伝いをいただいています。実際、来て頂いて感じることは私たち教員からの目でみるのと普及員としての目でみるのとではいろいろと違うとということです。(具体的な例はあげにくいのですが)
できるだけ簡単に言うとすると私たちはどうしても授業として成立させることを第一に考えてしまう。(点数もつけなくてはいけないし)だから減点法になってしまうんですね。
橋本さんの場合は加点法。どれだけ楽しんでくれたかが先にある。だから生徒は橋本さんの方になつく。
これはちょっと悔しいけど、両面で生徒をみられるというメリットは大きいですね。
 
3.橋本さん登場のウラ話
  最初は正直、全く考えていなかった。というか普及員なんてのがあることも知らなかった。授業が始まってしばらくしたときに他の先生から「府の人材バンクを利用して指導のできる人に来てもらわへんか?」って言われた。人材バンクがあるのはは知ってたけど使うことはあんまり考えていなかったんだけど、まあ一応調べてみよかと府のHPで閲覧してみるとやっぱり近くにいなかった。(泉南の方に将棋で登録している方はいる。確か小学校のクラブを支援されてる方だったと思う)でもホンマにいないのかなと思ってどうせ聞くなら将棋連盟に聞いたらいいかな?と思って問い合わせをした。
そしたら普及担当の荒衛さんが普及員のことを教えてくださって「何なら紹介しましょうか?」と。そこで「どうせなら女性を紹介してください。選択してる生徒は男の子の方が多いので 」などと厚かましいお願いをしたら橋本さんを紹介して頂いたというわけ。現在彼女には府の人材バンクに登録して頂いて、社会人の特別非常勤講師として授業に来て頂いています。
 
  4.授業の進め方
 
カメラ
 
目線で!
 
ハーイ〜!
 
ポーズ!
   昨年はイレギュラーな形であったが基本的には2時間連続を基本にした進め方で展開している。
まず前半はプリントによる学習。連盟の方から頂いたテキストを基本にしている。市販の入門書のように字が多いと説明が大変だし、点数をつけにくいので極力、練習問題のみで構成し、前で簡単に説明しながらどんどん問題を考えさせる形式をとっている。橋本さんには机間巡視をしてもらって生徒の質問に答えてもらっている。
 後半は対局。どうしても仲の良い子同士で対局したがるので相手はこちらで指定。(そのため毎回、座席は違う。これを作るのは大変)2局目以降は自由だが。
 
5.点数の付け方
   基本的に欠点はつけたくないし、実力のみで成績が付くのもいやなので、出席+プリントの出来(ただし質問にはいくらでも答える)で60〜70点分をつける。後態度20点、実力20点というのが基本的なライン。
 だから一生懸命さえやってくれれば間違いなく80点まではつく。
後、特別ルール(?)で私に平手で勝てば成績百点というのもある。もちろん欠席していないというのが条件なので実際は勝たなくてもそれに近い成績になる。(これが真剣に生徒と勝負する理由の一つ)幸い今までに一人にしか負けていない。(このときも戦法限定だったので一応のいいわけはできる)
 
6.授業で教えたいこと
  (1)我慢すること
    負けそうでもあきらめずに全力を尽くすことや、負けた悔しさを表に出さない我慢強くなるためにおもしろくない(?)講義部分を我慢して聞くことなど。いずれも場面こそ変われど社会に出てから絶えず経験すること
  (2)学習する楽しさや、学ぶ姿勢
    彼らはゲームだから他の授業とは違って楽しそうに取り組んでいる。ただ、強くなろうとするとやはりそこには普通の学問と変わらない一定の流れがある。それをしらずしらずにでも身につけて欲しい。もちろん失敗に学ぶなんてのもある。自分より強い人に教えを請うというのもある。そういった諸々の事を身につけて欲しい。
  (3)マナーや相手を思いやる気持ち
    もちろん将棋にも作法やマナーというものがある。なかなか徹底はできていないがこの部分も教えたい。将棋のマナーの中には根底には相手を思いやる気持ちがあると思う。そういった部分を教えていきたい。
 

記事 大阪府立長吉高等学校 木谷 紀彦
撮影 どかん3号、4号