赴任した当初は甲南は「お坊ちゃん学校」というイメージが内外に根強く、「どうして甲南の子が庶民的ゲームの将棋なんて」という雰囲気でした。
戦績が上がるに連れ、まず内側の理解が、そして徐々に外部の方にも「将棋の甲南」と言っていただけるようになり、現在では将棋部を目的にして入学試験を受けに来る受験生まであらわれて大変喜んでいます。
ひとえに3つのものに恵まれたと思っています。
まず「時代」に恵まれました。
近年、プロの方のイメージが社会的にも変わったことはもちろんですが、クラブ顧問になった頃に大流行した「藤井システム」などの新しい理論の書物が豊富にでまわるようになったこと。
初級者でも、ちょっとまわりがそれを説明してあげるだけで、あるレベルまで強くなれるようになりました。
それと「バックアップしてくれる」人に恵まれたこと。本校将棋部OBの竹村康正さん、プロの島本亮四段はいつも試合や合宿に顔を出してくれ子どもたちに勇気を与えてくれます。
また藤原直哉六段、藤本裕行さん、等々いろいろな方々がアドバイスをくれます。
その他、クラブの親睦会でバーベキューなどをやったりするとき、30人分の肉を焼くのは大変だろうと生徒のお母さんも手伝いに来てくれたり。
顧問が将棋に疎くても、疎いなりに一生懸命やっていれば必ず人が助けてくれる、という将棋界の暖かさを感じます。
最後に「生徒」に恵まれました。私がクラブで言うことはどこかの野球チームではありませんが「県大会で優勝して全国に行きたいんや」ということだけ。
(理論は無いものですから・・・。)褒めることよりクサしたりぼやいたりのことが圧倒的に多いのですが、それでも将棋を嫌いにならずに続けてくれる生徒たち。将棋の魅力の深さを感じます。
勝負の世界である以上、生徒たちには「勝つこと」にこだわってもらいたいというのが私の思いです。
学校のクラブ活動というものは、「楽しめたらそれでいい」という人も多いのですが、「楽しみ」にも質があってやはり一つでも高いところにあがれば、また楽しみは大きくなります。
低いレベルでなれ合う「楽しみ」に妥協させたくない、「上には上が居るんだなあ」と思える体験を生徒にさせてあげたい、と思っています。
具体的な技術を身につけた生徒は確実に人間的な成長を見せてくれます。「地位は人を作る」などとよく言いますが、落ち着きのなかった生徒が強くなっていく過程でいつのまにか好青年に変わっている様子を見た時、将棋部顧問冥利に尽きます。
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